Motoi Yamamoto
山本 基

山本基の作品に使われるたった一つの素材、それは、塩である。山本はこの白い素材を小さなボトルに詰め、ちょうど万年筆のインクのようにボトルの先から流れ出す塩で描く。塩の造形物が床を覆い尽くし、迷宮のような様相をなす。たくさんの小さな泡のようなフォルムが大きな泡へとつながり、有機的に渦巻く大きな流れを形作る。その様子は、銀河あるいは目では見ることのできないミクロの世界を覗き見るような微視的な画像を彷彿とさせる。塩は、山本基の手にかかれば宇宙的な、小宇宙的・大宇宙的な次元をもつようになる。宇宙が無常であるように、山本の作品もまたそうである。鑑賞者は展示期間の終了後、作品の塩をすくい取りその発祥の地へ、つまり現実世界の川や海へ還すよう要請される。

山本の作品におけるこのような「ギブアンドテイク」の思考は、単に物質的な次元で考えられているのではない。「与える」、正確にいえば「返す」という行為は、山本にとって、若くして亡くなった妹を思い出し追想する行為でもある。蓄積するだけでなく痛みや悲しみをひき起こし、さらにはそれらの感情の源泉へとみちびく記憶。塩の迷宮は、無限に枝分かれする記憶の通り道だともいえるだろう。「思い出の核の部分を自分の心の奥深くで感じたい」と山本が言ったことがある。どこかへ向かい、再び帰っていくという、人生の中で一人ひとりがみな歩む道のりについて、山本基の塩の作品はごく普遍的かつ感性的な形で語っている。

(翻訳 竹内仁奈子)

 


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