Nobuyuki Osaki
大崎 のぶゆき

流れ出すイメージ、溶け出していく顔や身体や模様が、大崎のぶゆきの作品の第一印象であり、そして忘れがたいイメージである。画面に映し出された大崎の作品に向き合うと、初めは、ひときわ色鮮やかな水彩画のように見える。だが、次の瞬間、その鮮烈なイメージが動き出す。たとえば、顔だったものが原型をとどめながらもそれぞれ勝手な方向へ漂いだし、輪郭がぼやけていき、描線が崩れ、溶解していく。このようなイメージによって大崎は「不確実性の現実」と呼ぶものを「描く」。その際、大崎はまず、きわめて具体的な方法で、思い出の中の一見すると動かしがたい事実を再確認していく。制作過程において、たとえば〈Trace Trip, Time Capsule〉は、自分ではなく他の人々の思い出についてリサーチする。友人らにインタビューしたり写真を集めたりして得られた情報から、ポートレイトが制作される。しかし、思い出は現実に存在するのだろうか? たとえば歴史家がアーカイブから資料を入手するように、記憶から「本当の」イメージを取り出すことなどできるのだろうか? 大崎はそれを疑い、むしろフィクションと現実の境界線がない不確実な世界への旅として思い出を捉える。過去から現在へと引き寄せられたイメージは、再び溶け出し、不確実なものとなって漂流し、また違った姿で現れる。その際、大崎は思索的領域に踏み入っていく。芸術作品へと変化をとげた思い出は、たとえば壊滅的な地震の記憶など相似した思い出の出来事によって再生産される経験をも含んでいるかもしれない。ならば、未来に起こりうる出来事に既に今、反応を示す、いわば予言的な「思い出」が存在するということになる。

大崎の時間についての考察は、近年の仕事では、自分や誰かの個人的記憶を手がかりに、過去・現在・未来が同一上にあるという現代宇宙論の時間概念をヒントに「multiple lighting」なるアイデアを展開する。

(翻訳: 竹内仁奈子)

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